「ぬるま湯」という発想

現在日本各地では2020年東京オリンピック、また2025年大阪万博に向けてさらなる増大が見込まれる来日外国人観光客へのいわゆる「インバウンド対策」に追われています。

世界に認知されて久しい「おもてなし」。まさに日本の細やかな気遣いを示すに相応しい言葉ですが、実際に海外からのお客様は日本独特のおもてなしをどのように受け止めているのでしょう。

主体性に長けている海外の人たち、特に欧米人にとって、甲斐甲斐しくされることは必ずしも好意的に捉えられるものではないというのが残念ながら現実のようです。

例えば、日本文化を肌身で感じたいと日本旅館に宿泊したところ、館内履きの脱ぎ方からお箸の持ち方まで手取り足取り指南されてとても窮屈を感じたのだという話を実際に聞いたことがあります。勿論、スタッフの方たちはお客様がお箸を使いやすいよう、また日本の美しい所作をおもてなしとしてお手伝いしたわけですが、好奇心旺盛かつ日本の伝統や文化に馴染みのない人たちには「日本ではこのようにいたします」と説明が書かれた文字による案内の方が嬉しかったようです。

海外の人たちはさらに、知らない人から突然からだに触れられることに対して強い違和感を持つことがあります。

互いを知らない双方にはそれぞれの思いがあります。日本への憧れと期待を抱いて来日する側と日本の伝統文化を伝えたい側。そうした思いの温度は熱過ぎれば苦痛や疲労を生み、低過ぎれば無関心、冷たいという印象を与えてしまいます。

けれどもそうした観念を払拭することは決して難しくありません。両サイドにとって “the happiest” な「人肌」「ぬるま湯」状態をつくる最も適切で容易な、来日外国人観光客が求めた「説明」つまり言葉による伝達という手段があるからです。

海外の人たちは、私たち日本人が考えている以上に学ぶことが大好きで、活字を読むことを苦としません。それを証拠に、海外の旅行ガイドは日本のそれとは違い画像は殆どありません。そこに書かれた情報がどれ程のボリューム、また正確さかは別として、「英語の通じない日本」を訪れる前に言葉で困らないよう活字で情報を仕入れてやってきます。

これはオーストラリアの大手旅行ガイド “lonely planet” 日本編です。北海道を紹介した70ページの中に、地図以外の画像は1枚もありません。lonely planet に限らず、海外の旅行ガイドは「読ませて伝える」が常識。海外の人たちは目で見た景色の美しさや食材の新鮮さで旅を判断するのではなく、しっかりと詳細を知ることのできる、文字による案内を参考に旅をするのです。

こうした海外と日本の違いを見てみると、英語で書かれた説明によって得る情報、要するに事前に得られる「心構え」にスタッフの笑顔が加われば、バランスのとれたおもてなしが実現すると言えるのではないでしょうか。勿論この場合の「英語」は日本人目線でなくあくまでも「ネイティブ」仕様であることが条件です。

文字で伝える情報は、旅行者のみならずおもてなしする人たちにとってもハードルの高い英語力取得から解放されるという大きな利点であることは間違いありません。

外国人観光客が困ることのない北海道。これを実現すべく、各施設や名所、飲食店等の英語環境整備を急がねばなりません。リクール北海道は、「言葉に困らない北海道」と「外国人観光客に困らない北海道」づくりをスローガンに「ぬるま湯フィロソフィーの道内拡大」を掲げ、日々活動してまいります。